2015/01/17

『モーツァルト!』 2 井上芳雄 ブラボーヨシオ!

絶賛の声しか聞こえなかった芳雄W、私もその中の1人です。

役との一体感、頭だけじゃなくすべての瞬間において、細胞レベルでヴォルフガングでした。芳雄くん、演じるにあたっては、理論と感情の配分が半々くらいの方じゃないかと思ってるんですが、この役に関しては、それらを越えたひとつのものだった。

長い間、同じ役を共演者、演出もほぼ変わらずに数年おきに演じるなんて、本当に幸せなことだったんだなぁとつくづく思う。しかも、題材的に青年期の自分を確立させている時期のお話のため、どんな芳雄くんであっても、それはそれで納得できるものに見えるという点もよかった。
ヴォルフガングを演じ続けることで、若々しいデビューしたての俳優が、日本のミュージカル界を背負う中堅どころにまで大きく成長した様を、私たちはみることができたわけです。
技術面では、声帯がしっかりして、高音も低音も思いのままに使えるようになった。たぶん、きちんと歌うこと、そのものへの不安感がへった分、自由に動けるようになったんだろうな。

もがいている役者井上芳雄の、器械体操みたいなラブシーンをみたことも、今となっては良い思い出! 不器用なラブシーンをみながら、でもいつか体重をぐっと感じるような素敵なラブシーンが見られるにちがいないよ、とその日を楽しみにしてたんだ。
そうして、本当にその日はちゃんとやってきた。
もちろんラブシーンだけじゃなく、全ての場面において、共演者と互角に演じあい、もしくはリードして、M!を完成させました。ついに!

この到達点で、爽やかに卒業だなんて、本当に爽やかすぎると思うけれど、お陰できっと2014シーズンのM!芳雄Wを観た人は、ずっと心のなかに幸福感を持ち続けられるんだと思う。あ、DVDもあるから、もっとたくさんの人に、幸せな瞬間がやってくるわね。

イメージ語りになってしまうのは、もうどの場面もどの場面も、おちょくることもないし、これはスゴイとピックアップするわけにもいかないし(だってどれも素晴らしい)だから。

今回、育三郎Wが見られず残念でした。というわけで、比較しては言えないのですが、芳雄Wの新しい視点がひとつあって、それは逆境と戦う男だったという点。

父や教会、貴族たち、自分の芸術の妨げになったり利用しようとするものたち、自分自身のことを、しっかり見ていて、それらと戦っていたということです。押しつぶされそうになっているところだけで見てましたが、今回の芳雄Wは、彼なりに自分全てを賭けてました。自分の命も賭けて。
しかもですよ、コンスを守る力強さが頼もしい。完璧じゃない2人が、お互いに必要だとおもって手を取った、その必死さが良かった(特にソニンコンス!) 結果はどうあれ、芳雄Wはコンスを愛して守ろうとしたのが、痛いくらいに感じられた。

父への感情もね、このままを僕を愛して欲しい、これに尽きて。自分のアイデンティティである、作曲の才能が、愛され、かつ愛されない理由になってしまう辛さ。パパは才能のあるなしでなく、ただ息子を愛したかったのだと思う(思いたい)けど、それは出来なかったんだね・・・

もはや、青年の悩みなどという言葉では片付けられないレベルの苦悩。ココまで来て、ようやく脚本と作曲家の見通した、『モーツァルト!』という作品の素晴らしさを理解したし、日本版で演出担当してきた小池修一郎さんも、おそらくは見通しながら、ずっと若いタイトルロールを見てきたんだろうと・・・。

音楽もいいし、脚本も無理がなくていいけれど、M!って、歌えなきゃ演じられなきゃダメで(まぁそれをいえば、全ての作品もそうですけど)、エリザベートの共感できなさに比べて、素直に応援しちゃいたくなって、いいのよね。初見のひとにも薦めやすいし。
ここまで完成したものを、再演時にどうなるのかと考えるだけで、ぶるぶる身震いしちゃいます。ああ、こわい。

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