2015/01/07

『星ノ数ホド』12/13夜 12/14昼 変化しつつ繰り返される膨大なセリフの海

@新国立劇場 小劇場

マリアン/鈴木杏 ローランド/浦井健治
演出:小川絵梨子

いまいる世界も、いくつもの平行世界のうちのひとつだったら? 量子力学の観点からの量子宇宙論をもとにした世界を描く二人芝居。
登場人物は、その量子力学などを研究しているマリアンと、養蜂家のローランド。

物理学者のマリアンと養蜂家のローランド。
二人が出会ったのは雨のバーベキュー場。その時、彼には妻がいた。 
あるいは、晴れた日のバーベキュー場で出会い、恋におちた。
いつしか別れてしまった二人が再会する時、ローランドは別の誰かと婚約していた。あるいは......。
あの日、違う受け答えをしていたら?あの日、二人の状況がまったく逆だったら?
さまざまなパターンを繰り返しながら物語は進行し、やがて二人に運命の日が訪れる......。(新国立劇場HPより引用)
 一体どんな風に描くんだろう?と興味津々で行くと、ソフトな暗転(着替えも舞台上で行う)とベル音だけを使い、次の別の世界へと観客を飛ばしてくれた。ベルが鳴るたび、カチッと隣の世界へスライドしたように、ほぼ同じシチュエーション、ほぼ同じセリフの多元世界へと切り替わる。
同じようなセリフだけど、ほんの少しちがう。言い方が違ったり(優しく言ったり、イラついて言ったり)、立場が真逆だったり。
マリアンが不治の病に冒されたときも、良性だったり、安楽死の選択肢を語り合ったり。

出会いの時点から、マリアンが(安楽死)決意して家を出て行くシーンまでが大きな時間の流れであったけれど、死について向き合うマリアンの語りの場面は、繰り返し結末から見せて、会話の最初に少しずつ戻っていく部分も。多元世界とともに、時間軸もズラされているので、見ながら自分の中でカチカチカチとピースを超特急で並べていくような感じ。

1回目はバルコニー席からだったし、俯瞰して捉えようとしたものの、整理がつかず。
2回目は前方センターにいたので、浦井ローランドをメインに見ようかと思ったが、やはりピースピースのつながりを(見終わったところで、ここがこれでこれでと、場面ごとの見えない繋がりが発見できるわけではないのに)思わず見つけようとしてしまったかもしれない。浦井くんのキュートな普通の男のひと姿は堪能しましたが。

いずれにせよ、通常のAからBの状態と時点に変化していったよ、といった構成ではないので、脳がかき乱されました。気持ちよく乱されたというか。

鈴木杏ちゃんは、初めて拝見。キャリアの長さと体格の良さ(細いけれど、骨がしっかりしてそうだし、背丈もある)で、浦井くんと並んだ雰囲気が合う。そしてまた、うまい。技術がしっかりある上に、情熱を乗せているように見えました。
私がしたい西欧人のゆるカジ衣装を素敵に着こなしていて、羨ましい・・・素敵だった。

役柄的にも、自分の意思で人生を切り開き、自分の考えで行動したい、と自律的な人であったため、ローランド浦井くんを、姉さんについてきな!といった凛々しさと頼もしさでした。別に浦井くんがヘナヘナだったというわけではないが、舞台でリードしていたのは紛れもなく杏ちゃんだったとお見受けした。

浦井くんは、ストレートプレイでの表現方法について模索模索、格闘中といった具合。いつも台本が真っ黒というのは良く聞くエピソードですが、4回も演出に取り上げられたんですって。いいことだ。
ものすごい回数、ベルが鳴って、一瞬で違う世界に飛ばなければいけないのを、ここはこう、こう、としていったら瞬間の反応が殺されるということかと。
ローランドとマリアンのその時どきの立場や状況の違いで、思考し組み立てていく作業は行ったうえで、でも舞台にあがれば、瞬時に反応しなくてはいけない。2人はずーっと出ずっぱりなのだ。

たまに<セリフを言う><演技する>を意識して杏ちゃんのセリフに反応してるっていうより、待ち構えてるような顔してたのは、意地悪すぎかなぁ・・・

彼の美点である(これは練習してもダメなことかと)誠実さやら真面目さやら真剣さが漏れてしまう、という点では、ローランドにぴったり。蜂を通じて、<この世界>に繋がっている誠実な人柄が温かく伝わりました。理屈のマリアンとは世界の捉え方が反対で、そのせいで衝突もしてるけど、ローランドの温かさはマリアンには伝わっていたな。

多元世界だとしても、そうでなくても。可能性の分岐点にはいつも立っていて、そこでの決断の正誤は誰にも判定できない。で、この物語が突いてくるのは、まさに決断しているつもりでも、本当にそうなのか?という点。自律を重んじるマリアンに脳腫瘍が出来て、自分だと思っているものをコントロールできなくなっていく苦しみが後半のテーマです。

マリアンにしてみれば、安楽死のオプションは最後の自分の意思の表明だから、そのオプションがあると思うだけでも、辛さが緩和される。ローランドはそれでも、どうなったとしても生命が尽きるまでは行き続けてほしいと願っていた。お互いの気持ちはどちらも分かるだけに、この決断は重い。
見ていて思ったのは、決断の結果そのものより、思考すること会話すること自体が尊い人生そのものだなということ。年齢的にも、見送る人が増えてきたこのごろ、今・この時、が二度と戻らない大切な時間なんだということですね。すぐ忘れちゃうんですけど、大事にしたいものです。

さて。衣装が、普通の衣装もいい。コスチュームプレイなミュージカルが多いので、新鮮だ。チノパンのお尻がかわいいことになってる浦井くんとか。カウチンセーターの浦井くんとか、似合ってない気がするショートコートの浦井くんとか。その浦井くんがソファに座って何か飲んでるとか!

あああ、これは妄想には良い薪。炎がぼうぼう燃え上がりますね。マリアンの膝枕狙ってるとか、膝枕に成功してドヤ顔とか。僕たちは付き合ってるのかって確認しようとしてるローランドとか! で、キス!
あああ、ありがとうございます! わりと冒頭に出てくる場面だったのですが、あまりに可愛くて気絶しそうだった。ふーふーふー。

半年くらい前にビッグ・フェラーでバッタンバッタンと組体操みたいないちゃいちゃ場面してたのを観劇中にこっそり思い出し、成長したね・・・偉いぞ!と浦井くんを褒め称えた。相変わらず危ないくらいのエロさはいないが、これは演出的にさらっとしようとしたせいなんだと思う。いつかエロくて鼻血ブーブー出ちゃう浦井くんに会えるでしょう。片鱗は『ミュージカル・シャーロック・ホームズ』であった。大いに期待しています。

2014のラストに素敵な作品が見れて大満足でした。

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