2020/11/01

『リチャード二世』10/22昼 シェイクスピア歴史劇シリーズ最後

 @新国立劇場 中劇場

王リチャード二世/岡本健一 王妃/中嶋朋子
ジョン・オブ・ゴーント/大滝寛 
エドマンド・オヴ・ラングリー/横田栄司
ヘンリー・ボリングブルック/浦井健治 
オーマール公/亀田佳明
トマス・モーブレー/清原達之 
ヘンリー・パーシー/原嘉孝

12年に渡り同じメインキャストを起用し演じられたシェイクスピアシリーズの最後の作品。時系列としては最初の物語とのことで、全部見たかったし、新国立はこの偉業を広くアーカイブを公開してほしいと思いました。文化庁と新国立が主催なら、国民に還元してほしいです。モッタイナイ。

これまで一緒にシリーズを作ってきた俳優の金内喜久夫さん、中嶋しゅうさん、舞台美術の島次郎さんが亡くなっています。時間の経過を感じました。

というわけでシリーズを見返したくなりますー。おねがいー、自宅からアーカイブ映像にアクセス出来るようにしてくださーーい。

■浦井くんの役だけ書くと

『ヘンリー六世』ヘンリー六世
『リチャード三世』リッチモンド伯ヘンリー、ヘンリー六世の亡霊
『ヘンリー四世』皇太子ヘンリー(通称ハル王子)、のちにヘンリー五世
『ヘンリー五世』王ヘンリー五世
『リチャード二世』ヘンリー・ボリングブルック(ヘリフォード公、後のヘンリー四世)

プログラムについてる家系図を見ながらだと、親子それぞれの役をしていたり(ヘンリー五世が父、子がヘンリー六世)してるのが俯瞰できて良い。でも混乱するので、役柄の顔写真を貼って欲しいくらい。

物語としてはお気に入りの重臣の言いなりで財政も危ないリチャード二世の没落と、きっかけになったボリングブルックとモーブレーとの争いの話で、アイルランド遠征はしようとするもウェールズがちょっと出てくる程度(相変わらず〇〇ッシュ!と語尾が訛るウェールズ人の扱い、可愛い)

この遠征時に国外追放されてたはずのボリングブルックが没収された亡き父の財と地位を取り戻すためにイングランドへ帰ってきます。

この時点のボリングブルックに王位を奪う気持ちは(とりあえず)無さそうで、王冠をいただく者への敬意は決して捨てていないように見えるのだけど、部下がはやって王を暗殺・・・

自ら王冠を従弟のボリングブルックに引き渡すも暗殺されてしまうリチャード、と前途多難な王国を引きついたボリングブルックの姿が印象に残りました。

■新国立は巨大な劇場でないものの割と後方席のためオペラグラスを忘れた私には、今浦井くん笑ってるのかな凛々しい感じなのかな・・・予想しながら見る羽目に。王冠付けたあとの表情がはっきり見えなかったのが悔やまれます。

一応事前に戯曲はさっと読んで行ったのは助かりましたが、戯曲に肉付けするのは演出と役者なのだなぁと改めて感じました。重々しくとらえるのか、軽みで表現するのか、一つ一つの積み重ねで全く違うものが出来上がりそう。

■浦井くん、本当に大きい。

決闘だ!と手袋を投げたのに鎧も付けたその後に、王から国外追放処分を受け嘆きながら去っていく若々しい怒りの背中から、追放期限前にイングランドへ戻って来てからの振る舞いにも。

舞台上で家臣たちと観客の見上げる視線を受け止める器の大きさを思わせられました。借り物って感じがしなくなった。演じている、と思わせることがなくなって来たというか。その人が語っているように見えます。

リチャードは悪政をしたわけだけど、腹黒さというより王に相応しい器にないことが問題で、その点ではボリングブルックは自分が王冠を頭に乗せる日を実感を持って想像しながら生きてきた貫禄が見えました。その辺もリチャードがボリングブルックを苦手に思うところ。

『ヘンリー五世』でのアジンコートの演説場面を思い出したりして、国民の期待を背負う王子役、何度やっても似合うと感心。ご本人の持つ魅力がこのような役に合うのね。
血にまみれても何か清廉な気配が残ります。

■岡本健一さんがシリーズでは毎回素晴らしくて、今回もキラキラ着飾っている姿でいる時でさえ自覚のない小物感がいい。追われて皮肉を言ったりするのに卑屈になりきらずお坊ちゃんぽさを醸してみたり、良い。ダメな人だけど憎み切れない軽みが。

■リチャード大好きな王妃の中嶋朋子さんも、10代な感じ(設定上はいくつなのか知らないのですけど)にしか見えなくて、素直は良いことだけど王妃向きではない・・・と王と同じ匂いがするのでした。悲劇に没頭する王妃様。

■それから素敵なおじさま役だった横田栄司さんは、目をつぶって声を聴いてると吉田鋼太郎なのだった。どんどん似てきた。良く通るとても良い発声を堪能。

ヨーク公ファミリーコント、終盤の王ヘンリー四世(ボリングブルック)陰謀に加担していた息子オーマール公について、正義のため息子の首を差し出しかねないヨーク公と何としても守りたい夫人のドタバタシーン。

張りつめた場面なのに、どうにも可笑しくて家族コントみたいな様相。何でこういうシーンになってるんだろうなぁと不思議だったのですが、一回見ただけでは掴めませんでした。それとも鵜山さん演出でないときは、シリアス路線になったりするのかも?

わりと序盤からずーっとシリアスモードのままなのですが、ここだけ息抜きほっと場面で面白いです。

あとオーマール公、セリフの声や動きがはっと目に付く良さがあって、後でどなたでしたかと見たら亀田佳明さん。タージマハルの衛兵で成河さんと出てた人か・・・(テレビで見た)

■長い間さまざまな国の大勢の役者が演じてきた作品というのは、その時代ごとの表現を受け入れる大きさがあるのね。
歴史劇としても家族、名誉の物語としても、人間ってちっとも変わらない。

コロナで劇場もお稽古時からもとても苦心して作られたと思います。千秋楽まで無事に上演できて何よりでした。

新国立の椅子にエアウィーヴの座布団が置かれてました。何となくお尻が楽だった気がしました。