2017/11/20

『レディ・ベス』11/13昼夜 アスカム先生登場だけで泣く

@帝国劇場


レディ・ベス/花總まり ロビン・ブレイク/加藤和樹
メアリー・チューダー/吉沢梨絵 フェリペ/平方元基
リトル・ベス/斉藤栄万 リトル・メアリー/桑原愛佳


レディ・ベス/平野綾 ロビン・ブレイク/山崎育三郎
メアリー・チューダー/未来優希 フェリペ/古川雄大
リトル・ベス/山田檸音 リトル・メアリー/桑原愛佳

ロジャー・アスカム/山口祐一郎 キャット・アシュリー/涼風真世
アン・ブーリン/和音美桜
シモン・ルナール/吉野圭吾 ガーディナー/石川禅

いつぶりだったか、昼は最前列(上手際のA列)
オペラなしで見える、見えるー! 照明とか床のキレイさは見れませんが、美しい人々を見上げました。

昼公演の冒頭、目の前のアスカム先生が歌い始めると感情が高ぶってしまい、目に涙がにじんで先生のお顔が良く見えません。必死にこらえる私。何でベスの生い立ちを説明してるだけなのに、泣けてくるのか自分でもさっぱり訳が分からないのですけれど。
・・・祐一郎が歌ってるだけでうれし泣き。
お美しすぎて、日ごろ磨いた妄想パワーを発揮しているのかと自分を疑ってしまいました。たぶん、あの日見た祐一郎は本物!

夜は1階A席センターだったので、全体をまんべんなく鑑賞。美しい照明も楽しめました。アン・ブーリンが登場する場面では、いつも絵画のようで見惚れます。アン・ブーリンのコスプレ写真撮ってみたい。

■演出の流れがまっすぐ
今回の公演は前回から歌詞と演出が手直しされ、新曲も追加されました。見終わっての感想は、より“女王となる”ベスの成長譚として見やすくなった、です。
アスカム先生がベスの思想に大きな影響を与え、国王へと導いたことも、よりまっすぐ伝わるようになりました。

愛か天命かという二者一択にみえて、終わってから見直せば、なるべくして成った宿命のような流れを補強したのかなと感じました。占星術のイメージともうまく合います。

それぞれのキャストが前回とはまた違った姿を見れたのも良かった。アスカム先生はかもす雰囲気がすっごい若くなった。現役の颯爽とした学者、見たところ40歳くらいじゃないかと思ったんですが。若いわ。キャット様と共にベスを親代わりのように見守って導いていきます。

■ヘンリー8世より威厳がある、アスカム先生問題
祐一郎だから仕方ないのか。ヘンリー8世はセリフもないしマイムだけなので、威厳といっても難しい?
ベスが(おそらく)世界一の王だと崇拝するヘンリー8世、ちょっと仮装大会じみて見えて、その前で静かに歌う祐一郎の大きさに負けていた。たぶん前側に立ったのが悪かったの。ごめんねヘンリー8世。祐一郎が大きすぎて。

思うに、アン・ブーリンの登場のときみたいに、暗くして夢っぽく演出したほうが仮装大会っぽさが払拭できるのではないかと。

そして若いんですけど、どうしたの。キャット様とパリ―チーム・ベス体制

■ベスを演じる
花ベスと綾ベスを比べてみると、なのですが。今回は綾ちゃんのほうが素のままで作品に合っています。若く自分が何者であるかを見つけるヒロインとしては、ご自身の舞台俳優としての成長とベスの成長が無理なく合致しました。

初演時、張りつめた懸命さで、慣れて余裕が出ればもっと良いベスになれそうと感じましたが、それを今見せてもらったと思います。自信がついたのかな。若さを演じなくても、そのままで良いのも強みでした。今だからこそ、という役に出会ったということですね。

花總ベスは、初演時にはキャリアの重みが発揮され、王女とした育ち、女王となるべくして成った女性を可憐に演じていましたが、20歳そこそこのこれから世界に出ていく女性を演じる時に、テーマである自分が何者かを探す、という部分は想像以上に大変なのかも、と。
意識的に「若い女性」を目指していたと思うのです。戴冠に向かってキリリとしていく過程が難しそうでした。かといって可愛らしく品があって、言うほど違和感はないのですけれど。綾ちゃんがはまった分、そこが見えたという感じでしょうか。

あと、相手役のロビンの成長も大きかったんじゃないかなー。今回は加藤さんとの組で見たんですが、和樹の成長、いちじるしいです。器の大きな男になってたので、花ベスもロビンに合わせてもう少し器の大きさを醸しても良かったかもしれませんね。可愛さの度合いは演出家のせいかもしれませんし。たぶんそうだな。

とはいえ、花總さんのコントロールされた演技は好きなの。セリフでも歌でも声音を変えてしまうところとか。

お二人とも持ち味が十分出せているので、2回見てそれぞれ満足。

アン・ブーリンへの憎しみも、父母は半分ではないのかなと感じる私は、産みの母に向かって「インバイ!」って、ひーひどいと思うのですが、父の血筋はたいそう自慢するのに、母親をののしるってどういう気持ちなんでしょう。それだけ分かってなかったと言いたいのかしら

女王となるか、愛を取るか。迷って先生に相談する場面。花ベス、綾ベスともに(綾ちゃんのほうがより強く思いましたが)心の底では決まっていたものを、後押ししてもらっているように見えました。相談して、アスカム先生の口から聞きたいことをきいて、自分の道を選び取ったのだな、と。かといってアスカム先生を妄信している訳でなく、アスカム先生は自分は国を治めるべき人間か、という理解への手助けをしていたのですよね。

「心は君に」がなくなったのですねー。もう結婚なんてしない♪の歌詞がどうでしょうかこれ?だったので、新曲の流れのほうが“女王を選ぶ”ベスと“愛しているけれどベスの決断を送り出すロビン”となって、良かったです。

ベスが結婚しない、のは愛の問題というより国政の問題もあるし、ロビンも恋なんてしないとか言っても人生長いから恋するよねと思ってたの・・・(たぶんベスもそう思ってたんじゃないかなと勝手に想像)

■フェリペの二人、男子の成長を素直に感じる。

平方くん、前回はセクシー出ないね・・・と真面目な歌いぶりを見守ってた私ですが、3年の間に緩急とか相手役との呼吸とか、かなりの成長を見せてくれました。嬉しい。男ぶりがぐんと上がって、かつセクシーです!

色事で遊んでいるけれど、心の中はクールヘッド=スペインのためを考える王子であることが分かります。
どうも前回は、スペイン父王やルナールにつかわれているだけ、という感じに見えましたが、今回は理解した上で自らスペインの駒となり生きているフェリペでした。とても良かった。平方くんは、いま自分の味を見つけて磨いているところなのねー。

古川くん、私が見た日は本調子でなかったのでしょうか。どうもいまいちハッとするようなキラメキが感じにくくて。弱かったです。何か迷いでもあるのかしら。頑張って!
玉突きシーンはいまいちと思ったものの、大司教にワインを勧めるシーンは良かったです。あ、そうか、この日は歌がダメだったのですね。M!では歌で引っ張っていかねばならないので、どうなるのか少々心配です。繊細な芸術家風なのか、繊細な不良風なのか。

あと、あまりに顔が小さすぎてメガネを疑いたくなりました。禅さんと圭吾さんの迫力ある衣装やメイクに挟まって、上品に立っていると、舞台の遠近感がゆらぎます。顔はりんごくらいしかないんじゃないですかね。そして背も高いし。

2017/11/10

『リチャード3世』10/25夜 おもしろいけど、面白くなるには教養が必要

@東京芸術劇場プレイハウス

グロスター公リチャード、リチャード三世/佐々木蔵之介
アン夫人/手塚とおる マーガレット/今井朋彦 
エリザベス/植本純米(植本潤改メ)

クラレンス公ジョージ/長谷川朝晴 バッキンガム公/山中崇

リヴァース伯、サー・ジェイムズ・ティレル/山口馬木也
サー・ウィリアム・ケイツビー/河内大和 
グレイ卿/土屋佑壱 サー・リチャード・ラドクリフ/浜田学 
サー・ロバート/ブラッケンベリ/櫻井章喜

ヘイスティングズ卿/八十田勇一 エドワード四世/阿南健治
ロンドン市長、ジョン・モートン(イーリーの司教)/有薗芳記
ヨーク公夫人/壤晴彦

代書人/渡辺美佐子


小姓/兒玉拓真
皇太子エドワード/塙智成ヨーク公リチャード/福島歩友

演出/シルヴィウ・プルカレーテ

2012年の鵜山版(岡本健一さんがリチャード3世役)見たから大丈夫だろうと思ってたところに、先に見た方が口々に「あらすじをおさらいしておけ」と言うので、あわてて詳細あらすじを読み直して行った。これが良かった、皆さんアドバイスありがとう!

シェイクスピアと言えば膨大なセリフ、言葉言葉言葉!ですが、プル版は言葉は後ろへひっこんで、役者の肉体が全面に出ています。代書人以外はすべて男性が演じているし、「演技する」ことがより強調されている。

プログラムに、役者が「リチャード3世」で演技して遊んでいる、というのがあったのです。なるほど。

というわけで、基本的でオーソドックスな「リチャード3世」をよく知っている人ほど、より楽しめるのではと。

その点で、私は可哀想に一度見たきりのほぼ初心者なので、楽しそうだ、ということが分かるけれども、どの点が楽しいのか、掴み切れないのでした。楽しいけど、自分の中で深く広がっていかないのね。

もし「レ・ミゼラブル」超訳お遊び版があったら、すごいオリジナルとの差がわかってウフフってなれると思うんですよね。そういう感じなんじゃないかなと想像してみました。

コンクリート(印刷された布)に囲まれた空間。陽が差すこともない。窓もないので、とても閉塞感がある。登場人物たちは布の間か、扉から出入りする。

演出がルーマニアの方ということで、この寒々しい感じがそうなのか。
ヴァンパイア・・・チャウシェスク・・・とダークなイメージが浮かぶ。これは病院だな。暗くてじめじめ。小さなころに入院してた旧市立病院に似てるわー。

冒頭は現代風な白シャツに黒パンツ。ビニールとテープでぐるぐるにされる人物、音楽が鳴っていて、遊んでいるうちにいつの間にかリチャード三世が始まっていく感じ。

セリフは聞いたことのあるシェイクスピアだが、いまいちキリっとしない。が、女装ロングドレス姿のアン、エリザベスが動き回ると、それらしく見えてくる。

植本エリザベスは気品ある王妃(スキンヘッドに白塗りがイケてる)

手塚とおるアンは美脚で美鎖骨の美人。手塚さんってクセの強い役をテレビなどでは良くみかけるので、あんな美人になるとは思わず。友人いわく筋肉のついた二の腕はたくましかったらしいのですが、後方席のため美シルエットでした。

グロスター公が言い寄る場面は楽しみなところです。きゃーくらのすけえろい! 
あなたが美しすぎるから、殺したのだ。このセリフに案外説得力が生まれるとおるアンでした。役者ってこわい。

今井マーガレット、長いコート着てるので足がうまく見えなかったわ・・・たぶん筋肉。女装感すらない、しっくり。でも意外とあっさり通り過ぎていくので、もっと呪いまくってても良かった。最終的にはマーガレットの呪いが実現するわけですよね、ほとんど削除状態でした。お願い、もっと呪って!

グロスター公はせむしのフリ、足が悪いフり、を採用。戴冠したころには、もうフリもしなくなってたような。あくまでも油断させるためのフリ。

王冠を手にした時の、自分からビニール袋に包まれるのは、これまでの死体でビニールぐるぐるの人がいたので、あ、もうすぐ死体感がすごい。破滅へ自ら進んでいくのでした。

王冠を目指して殺しまくって嘘つきまくってきた元気な彼だが、途端に目的を失って悲しそうでした。そして誰もいなくなった。

佐々木蔵之介は、細い体が嘘つきっぽくてすごく良い。悪人の迫力というよりも、冒頭からなんだか空虚さがある。

王冠がほしいのも、そこにあるからといった程度で、権力そのものに興味がなさそうだし、鍋から直接食べ物をかっこんでいる姿も、味なんかどうでも良さそう。
意味なんかなくてただ悪をなして生きてるので、悪をなす目的をなくすと弱い人間に見えてくるのか。

周囲を恐怖や言葉や報酬で支配していくリチャードの魅力、ちょっと薄かったかな。佐々木蔵之介の魅力は十分なのですが。

追記:
その後、BBC制作「リチャード3世」(「ウィリアム・シェイクスピア12タイトル名作選」)を図書館で借りて鑑賞してみました。

カットしたセリフもないようですし、これが基本とすると、今回のプルカレーテ版はものすごく、アレンジ効いてるのが分かりました。これ見てからだったら、もっと楽しさあったな。残念、知識なかった私。

女性たちの呪いバトルと慰めあい、男性たちの権力になびいたり墓穴ほったりの応酬。これを知った上でカットされアレンジされたものを見ると、きっと欠けてる部分を自分で補いながらそうきたか!とか思えたに違いない。

DVDでも光り輝くリッチモンド伯が登場したときは、浦井くん思い出したよ。照明も衣装もきらめいてて、そういう演出になるのが多いのか。

そして、かえすがえすも体調不良で観劇できなかった(前日に諦めて飛行機もキャンセル)「ヘンリー6世」見ておけば!! この12名作選には入ってないんだよねー。ツタヤとかでこういうのあるのかな。文字より映像のほうが人物区別できて楽だし。