2014/12/01

『スリル・ミー』11/22昼 伊礼/田代ペア 2 分かってから見直したい、リピーターを呼ぶつくり

中盤の誘拐殺人から、拘置所までの流れの緊迫感が。
お腹痛かった。
先に書いたように結局逮捕されて刑務所にいることは分かっているのに、それでも緊迫感が激しかった。ずっとオロオロしてる万里生、罪の意識を襲われている様子の万里生、警察の手が自分に迫っていると追い詰められていく万里生、素晴らしかった。素直に騙されましたー。

一方、最初は全能感でいっぱいのオレ様だった伊礼<彼>が、徐々に事態を把握し、めがねを紛失したのはお前の責任、捕まるのはお前だけ、と罪をなすりつけようとする小賢しい態度を取り始める。いやー、ちっちゃいな「超人」は。

<彼>からの提案。証拠品を全て処分せず保管していた<私>が、<彼>の指示にしたがって従属的な立場で犯罪に加担してしまった、罪は認めるが主犯は<彼>とする司法取引を取り下げて、<彼>と共に裁判を受けることに・・・
そんなに<彼>のために生きるのか、お前は!と、またも純情に思っちゃったわ。

拘置所で小賢しい策略をする<彼>が、<私>を説得しようと歌うメロディは、児童誘拐時に子どもに向かって歌っていたものと同じ
自分の悪企みを伏せ、優しい人の仮面を被り、手懐けようとするメロディ。巧い!
けっこう耳に残る歌だったので、ここで同じメロディ使うんだなーって。たくさんあるミュージカルの楽しさのひとつでしょうね、このメロディをここで!と気づく楽しさ。愛の始まりと終わりに同じメロディが使われるとかさ・・・(『エリザベート』とか他にもたくさん)

それから、櫛目ばっちりなヘアが乱れるように、「超人」気取りだった<彼>がどんどん普通人っぽく崩壊していくのが、面白い。ちょっと、ざまーみろ、という気分になる。
ずっと惚れた弱みなのか<彼>に従う<私>がかわいそうな気持ちにすらなっていたので、そう思ったんだろう。

拘置所の隣同士、<私>が寝てしまったと思い、自分の気持ちを語りだす<彼> お互い顔を合わせず、心の底を見せるような夜。<彼>の「超人」はどこへ、死ぬのは怖いと吐露などする。児童への罪の意識よりも、自分が死ぬかもしれないことを恐れるのだった。

万里生がどんな顔して聞いてるのかなーってオペラ出して拝見する。じっと聞いてた。すごく嬉しそう、でもなく、すごく怒ってるのでもなく、静かに聞いてた。死ぬのは怖くないの・・・? 優しさはないけど、大人が子どもの話を聞いてるみたいな、<彼>がそう語る内容は既知のことだっていう感じの顔。
これまで、万里生<私>は分かりやすい反応してたのが、ここで“何考えてるのか分からない”人にみえる。このじっと聞いてる<私>が、<私>の素か。

超人なのは、僕のほうだ。
(セリフうろ覚えですけど)<私>が静かに語りだす、大逆転の場面。
95年、2人は一緒だ。そのために、めがねを殺人現場に残したし、証拠品も処分せずにいた。司法取引を取り下げるように<彼>言うことも見越しての、収監だ。決して離れられないでいられるようにするために、誘導したのだ、と。

「まだわからないの?」的なことを言ったときの万里生の顔が! コワイ! 自分がコントロールしてると思っていた<私>から、実は自分のほうがコントロールされていたことを言われ、最後の一撃受けたみたいに崩れ落ちる<彼>!
ギャー。
そうだった、冒頭で万里生<私>の従属してる風で実はこっそり主導してる感じ、忘れてたけど、そうだったー!

トドメ刺したなー、全て手に入れたらしい<私の>静かな満足感が恐ろしい。

こういう展開だと、<私>が<彼>への執着をどの程度見せるのか、さじ加減が大事ですよね。あからさまに手に入れたい態度だと、主導権を奪い去るこの終盤の見せ場が薄れてしまう。かといって、あまりただ振り回されてる<私>だと、実は・・・の部分に説得力が生まれない。
ということで、万里生の<私>は、そのチラ見せ加減が良かったですよ。伊礼<彼>の尊大さとある意味鈍いところもぴったりだった。

終盤、仮釈放の審議場面、<彼>が刑務所内で殺されたことが語られました。せっかく95年(つまり永遠に一緒と同義)いられるはずだったのに・・・ もう<彼>がいないから、仮釈放申請したんだなっていうのが分かりました。はぁぁ

ところで時代設定に気づいたのが、電話を見たとき。
大学生が三つ揃え着てる時点で時代感を捉えるべきだったとは思うけど、女性の衣装ほどにはすぐ時代を把握できなかった。他に時代や場所を示すものがなかったので、子どもを殺して帰宅してからの「めがねがない!」騒動で電話機が出てくるまで、しっかり時代を把握してませんでしたね・・・
今思えば、タイプライターで分かるんじゃ?ですけど、なにせ「俺は超人」とかいう子だから、レトロ好きなシュミがあるのかもとか思った程度。鈍かった。
だから犯罪の証拠品の扱いがあんなだったのねー(DNA検査のない時代のお話)

舞台セットもシンプルでよい。
余計なものに気を取られることなく、ただ2人の攻防を見ていればいい。左右対称のセットに、光がタテヨコと当たって、この光の使い方は演出の栗山さんらしい気がしました。

先日、アルジャーノンの音楽が私には合わなかったと書きました。スリル・ミーにおいてその杞憂はゼロ。場面ごとに相応しく、あるときは展開をリード、あるときは流れていることさえ忘れるほど自然に溶け込んで、ミュージカルの音楽ってこうであってほしい度が100点です

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