2011/05/05

『レ・ミゼラブル』4/16-8 お父さんバルジャン

以前は、颯爽とした市長殿に激しくときめいていて、1幕が終わると、ああもう老けてしまうのよね・・・などと思ったものでした。見かけだけに反応するなんて、私も若かったわ。



このごろは、どのバルジャンもステキ。そして、どのバルジャンにも、父親のような愛を強く感じる次第です。



貧民街でパンなどを分けて歩くバルジャンとコゼットの姿を見れば、あのハエ殺しが趣味の(原作にあるエピソードではありますが、コゼットの遊び=ハエ殺し・・・ がーん)コゼットを、育ちの良いしっかりした娘に育てたことが、一目瞭然。



そして、迎えに行った日に着せた喪服をなぞったような現在の服に、彼女の切ない生い立ちが見えるというものです。うーむ、見ればみるほど隙のない演出に、恐れ入ります。



マリウスと心通じ合わせ、自分の生い立ちについてバルジャンに問いただすコゼット。「告げるだろう、神が・・・♪」の言葉に、ラストシーンがフラッシュバックするので、私の胸はきゅーっと締め付けられます。
彼女の身に起きたことを、いつかは教えなければいけないのは分かっているけれども、それはコゼットを自分の手から離すときだと、分かっているんですよね、バルジャン。
それで、コゼットと向き合うのを避けてしまうところがある。ううっ



■「君の恋人、マリウス」
マリウスからの手紙を読んだ後の祐一郎バルジャン、ものすごく複雑な心境なんだろうなぁと思われます。





ここ、読み上げるのもメロディがありますが、「君の恋人、マリウス」という時の、ついにこの日が来たか!的な胸を衝かれちゃった感じの言い方。CDで前のを聞くと、変化してるのも良く
父親の宿命・・・ 手塩に掛けた娘も、いつか別の男に・・・ という素直に悔しい気持ち。


と、同時に。コゼットもこの男を愛しているのだろうか、どんな男だろうか、砦でこの男の身に何かがあれば、悲しむだろう、などなどの心配が膨らんでいくんですね。この時点では、コゼットが悲しむことが耐えられない、という動機で砦に突進していったバルジャンでした。


ここも、以前は恋人だなんて!という感じの驚きをよく表現してた祐一郎でしたが、ここ何度かは本当にコゼットのために、何もかも心配でたまらないといううろたえた感じが強いです。


しかも、もう結構なお年寄りになっちゃってるのが! それでもなお、砦に突入ですよ、コゼット命なのだわ。
私まで父親の気持ちに同調して、愛しいコゼットのため!と鼻息が荒くなる・・・んでした。だからコゼットの笑顔の花嫁姿は嬉しくてたまらないですねぇ


■「まるでわが子です」
マリウスを見るまでは、コゼットのためだけが心配だったバルジャンですが、エポニーヌを亡くし、コゼットともう会えないと沈むマリウスを見て、この言葉。


ますますもって、完璧なセリフ、進行に脱帽。バルジャン役もめまぐるしく心境が変わっていくのを、どう表現するか。大変そうですね。


人生の終わりの時期に、若者たちの将来を眺め、そのためになるなら命を差し出そう、と。『彼を帰して♪』にいたっては、もうコゼットのためなどという小さな範囲の動機は消えており、未来ある子を助けてほしい、とピュアな願いだけがバルジャンに満ちてます。


ここを、静かに静かに歌う祐一郎の祈りの声に、却って思いの大きさと深さを感じるというのも、長くバルジャン役に取り組んでいる祐一郎の経験というか、広さというか。
神に言おう、とか願おう、というはっきりした意思があるっていうより、思わず全身から溢れてきた思い、がこの静かな歌になって表現されているんじゃないかしら。


歌としては見せ場、聞かせどころなので、気合が入ってしまうのも当然なところでしょう。だけど、祐一郎にはそれはない。うん、もうない。どの場面も同じように集中して、そのときのバルジャンを生きていると思いました。


照明も、オケもひたすら美しくて、普通の人であって、かつ神々しいバルジャンでしたー。




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