2016/12/24

『貴婦人の訪問』11/26.27 6 もうクズ野郎じゃない

SCENE5 イルの雑貨店
♪もう恐れない

市長と警察署長が揃ってやってくる。打算、計算で生きる二人よ!
市長はともかく「町のため」っていう大義名分があるので、ケロッとしてますね。コワイコワイ。

そして警察署長!一番コワイのは、誓った友情~死ぬまで~♪のゲルハルト。
自分のことは自分で始末しろ(名誉ある死だ)と、拳銃を手渡すのよー。すごい。全く自分は正しいと信じてるの。市長は打算を自任する鉄仮面なので狂わず、警察署長は正しいと思うから全く狂気がない。ってそれが最も狂気かもしれない。

1幕にでた親友デュエットが静かに繰り返されて、アルフレッドがくず野郎でも、こんなひどい目にあっていいのかしらと思うわ。
それもこれも偽りの人生の一部だったのだと、アルフは思ってるのだろうか。

覚悟はできた 恐れはしない 
お前たちはみんな 欲望の 奴隷 そうだろう(耳が痛い)
さぁ俺を殺せばいい
俺は過去を受け止める やれよ どうせ みんな 芝居さ~
全ては偽り 裏切りの 町~(ローングトーン!!)♪

どうですかこれ、クズ野郎が輝いた瞬間。ここにたどりつけるのに、あの日の過ちが悔やまれる。

前を向くんだ 胸を張って(だっけ?)畏れない俺は~♪

もう、くず野郎じゃないぞ!(ちょうかっこいい)
対クレアとしては、命を差し出さねば償えないならばそうしよう、と覚悟した歌。対町の人へは、昔の自分のようで金に目がくらんで倫理も自分自身も見失っている、決して幸せにはなれないぞ、と。

高らかに歌い上げたあと、子供たちが明るく入ってくる日常感がなんとも言えません。彼ら、どうにかいい感じで(死なずに赦してもらって)上手くいくって信じてそう。
で、裏切り者め、ってアルフが出て行った子供たちにつぶやくのって、万が一でも父親が死んでも平気なんだなって分かったからの言葉。子供とはマチルデとは違う絆があるって、アルフには思えてたのかな。

マチルデからすれば、お互い様・・・ 最初から裏切ってたのは、どっちだと言いたくなるわけね。

SCENE6 イルの雑貨店
♪あなたのために泣く

そんなタイトルだったのか。どういう気持ちなんだろう? マチルデは自分に非はないのだって思ってるんだから、本心を隠して生きたあなたのために泣いてあげようってことなのかなぁ 泣くことで自分の立場を正当化したのかしら。

初演のときはもっと自分勝手さばかり印象にのこった場面だったんですけど、今回は“本心”にたどり着いたって感じでした。

マチルデと結婚したのはお金目当てだったのに、きっとずっと自分でもマチルデを愛してるって思おうとしてたのね・・・
年月が経るとそれもそうだなって信じてたところに、クレアが登場して自分の心に向き合って見つめたのでしょう。

しかし私は妻であるので・・・ほんと、マチルデの叫びもすごく分かる。パッションじゃなく、絆があるでしょ?っていう呼びかけ、分かるのよ! 子供も育てたし、お店も一緒にやってきたでしょう。それなのに!
一度も愛したことはない、金のために君と結婚したとか! グーパンチ!

ただ、のちのち思えば、ここで真実を伝えることがアルフの最大限のマチルデへの愛情なのかも。偽りの人生を終わりにすることが償いだったのだから。

ほがらかな明るい雰囲気の瀬奈マチルデだからこそ、凍った心から出る言葉の冷たさが激しい。ラストで逡巡というより、さようならって感じでぐっと挙手する姿は、心の扉が閉まった音がしました。

SCENE7 コンラーツヴァイラーの森
♪愛は永遠に

怒りと哀しさ悔しさでいっぱいのクレアを抱きしめるアルフレッド。これね、初演のときは、そんな懐柔策で落ち着かせようとして、嫌な男だよって思ってました。
初演時も意図するところは、私が考えたような卑しい気持ちではなかったんだろうなぁと今なら思うんだけど。

今年は違う。今年のアルフレッドは違う! 本当に心からクレアの受けたものを自分も受け止めようとしてるの。どうか落ち着いて、とやさしく抱きとめるの。昼メロだぁぁぁぁ

泣いちゃうしかないでしょ。お二人も鼻水ずびーんって感じですけど、私もずびずびですよ。ううう。遅いのよ、アルフレッドー!!

過去をどうしても無くしてしまえなくて、取り戻せないことを分かったうえで、取り戻そうとしていたのよね・・・切ないです。

前も書いたが、26日はすごい健気に気丈に過去と対峙してるクレアで、27日は復讐するのよー!なドSクレア。

最後に、クレアは、過去を赦せるかもって思ったんだよね? 復讐の炎がすっと消え去った顔になります。両日のクレアはまるで違う印象だったから、この瞬間への流れも違って、なかなか面白かったのでした。でもどちらも、緊張の糸がゆるむ、といった風情ではあった。張りつめたものが、すっと昇華していくような表情でした。

もういいの、と言おうとしたとき、アルフレッドはすでに駆け出して行ったあと・・・くうう、ツライ。一瞬クレアの心が平穏になったように見えてたから、アルフが居ないと気付いたあとの衝撃ったら。あああー

SCENE8 ホテル“黄金の天使”の中
♪正義の名において

茶番だから。神妙な顔で取り仕切る市長、きらきらの服着て正義の鉄槌をなどと思ってる町の人たち。

アルフがホテルに入ってきたときの校長の顔とかね、目を合わせられない感じの。でも挙手しちゃう弱さ。反対に、表情をなくしてしまったマチルデの挙手も。

横たわるアルフレッド。駆け込んでくる(でも威厳あるわ)クレア。

永遠に失い、永遠に自分だけのアルフレッドになったよね。望んでいたし、最後は望まなかったし。二つの気持ちがせめぎ合ってるように感じました。

初演のときは、小切手はさっと渡した気がします。約束の小切手、アルフのそばに座り込んで見つめたまま、小切手を出すものの、市長が取ろうとするのをぐっと掴んで離さないの。
渡せば、金でアルフの命を買ったことになる。それが嫌だったのかな。死んだことを認めたくなかったのか。

人殺し! 小さく、強く言うクレアと、受け取って、金は金、キレイも汚いもない、という市長の顔。

じゃじゃーーーん。

すべてもって行かれました。二日とも。
クレアとアルフレッドは。生きた、愛した、となった再演版。

重唱が特に美しい作品で、涼風さんのパワフルでありながら傷ついたままの17歳でもある、演技の幅と歌声は、もし日本ミュージカル界にトニー賞あったら最優秀主演女優賞を差し上げたいと思います。まぎれもない代表作と言えるでしょう。

私の祐一郎はカッコよさ無限大、役どころではくず野郎ですが、かっこ良くて何度も死にそうになりました。
そして涼風さんとしっかり組み合って毎公演を作り上げていたし、包容力のようなものがじわじわと伝わってくるのです。祐一郎ー!

再再演はいつですか?
あととりあえずCD出してください
オリジナルキャスト盤も素晴らしいんですが、日本キャストの奥行きある表現力も素晴らしいので!
 

2 件のコメント:

  1. みゆきちゃん2016/12/25 22:51

    CD・DVD(おまけに写真集)も熱望!!

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