どうしても語りたくなってしまう、それがお岩さま・・・
「妻」「娘」という肩書きをつけてる入れ物(身体)と、心が、顔が崩れたことで乖離し、その心が怨念となって伊右衛門を襲う。
伊右衛門が言葉と心に相違のない人物なのに対し、お岩だけは、話す言葉と心の声にズレを見せます。
だからこそ、保ってきた美貌が崩れ去った時、それまで出さずにいた暗黒面
(嫉妬心、自尊心)があふれ出ることになったのだろう。
武士の娘として、父に従い、父が死ねばその仇打ちのために、復縁する。
夢の話で、恋があったのかと思わせるけれど、それは夢のように一瞬の出来事で、
この時代の女性のありかたが、何事も男次第である不自由さが如実にみえてくるのである。お岩さまは、このような状況にずっと耐えてきたのに、ひどい仕打ちされて、爆発したのだよ。
セリフにも、女であるから・・・(男ならば自分で仇討ちするのに、男を頼らねばならない)と悔しがるところがありました。
打算的というのは酷なことで、そうするしかないのです。かわいそう。というか、つらい。
外に女を作っても、仇討ちさえしてくれるなら、というのも悔しいに決まっているのに、言えません。(悔しいと思ってそうだなと感じたのですが、どうでしょう)
打算的に結婚したのだと自分を納得させようとしても、心がそう簡単に納得できないのですね。
伊右衛門を愛していたから、とか簡単な理由ではなく、思い通りにできない立場のなか、ありとあらゆることを我慢してきたのに、邪魔者扱いされ、容貌を破壊された憎しみ、
絶望感(伊右衛門には伊藤家の誘いをきっぱり断ってほしかった!)
人生のすべてを懸けた、許すまじ!の気迫が、あのようなことになったのでしょう。
そもそも肥立ちが悪く、自分はもう長くないと思っているのだから
死ぬことは予想がついてるお岩です。
自分が死んだら、すぐに嫁をもらうという伊右衛門に酷い、と
言い返すのはちょっと意外でした。
継母は駄目だったのか・・・乳母ならいいのね?
やはりお岩は伊右衛門のこと、女として好きというか、執着があるのですね。
そんなお岩を演じた、秋山菜津子さん。
しとおーっと(じめじめはしてない)した湿気をわずかに感じさせるいい演技でした。
怒り、恨み、どの言葉が一番合うだろう。
悲しみ、もあった。
全てが濃厚に入り混じった、一言ではいえないようなマイナス感情の塊?
死後の動きも、「幽霊」風の様子ではないのが良かった。
あれは、お岩の心が全力で叫んでるって感じ。
母の形見の櫛を伊右衛門が質に入れると取り上げようとするのに負けまいとしたら、
爪が剥がれたとか・・・
そこまでする伊右衛門も、頑張るお岩も怖いから!
櫛で髪をすくと、ごっそり髪の毛がとれ、その髪の束からは血がしたたり落ちる・・・!
ぎゃーーー!
顔が崩れていく場面では、あまりセリフはないのです。
かわりに、ものすごい執念を発揮して女の身支度をします。
これが、<女の執念>をこれでもかと見せつけて、いやすさまじい台本だよねと感心します。
お歯黒つけたら、口から血がたらら~。
髪をすいたら、抜け落ちて血がしたたる。だだぁ
夫に着物を奪われてしまったので、夏にしても薄着の一枚きりの哀れな姿で。
並々ならぬお岩の執念が、一心に鏡を見つめる瞳のなかでめらめらと燃え上がってた。
ほとんど臥せっている役なのに、全体を通すと存在感が大きい。他の者たちが何をしていても、常にお岩を抜きに考えられない。
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