2020/12/31

『オトコ・フタリ』12/21夜、12/22昼 脚本と演出について

 @シアタークリエ

禅定寺恭一郎/山口祐一郎
中村好子/保坂知寿
須藤冬馬/浦井健治
須藤由利子/大塚千弘

脚本/田渕久美子 演出/山田和也

コロナで不要不急の外出自粛を言われていたなかの遠征でした。ぐっと観劇をこらえてらっしゃる方もたくさんいたと思います。最も良い選択は遠征中止と理解はしていても、誰とも会わず黙って移動するだけならリスクは抑えらえるのでは? 悩みました(何を言ってもいい訳じみてしまいますけれど) 

夫とも相談して外食しない、お店で買い物しない、劇場と、劇場から徒歩圏内に取ったホテルの移動のみにして行くことに。

一番の決め手は、遠征1週間前くらいに東京都の状況が悪化し、これはもう無理かと思ったらオイオイ泣けてしまって、泣くほどツライのかと驚いた。自分にとっては行ったほうが元気になれると思ったのでした。

そんな感じで行きました、『オトコ・フタリ』

途中、2幕モノを1幕構成にして・・・という話も聞こえてきていましたが、上演時には2幕に戻しています。

客席は8-9割埋まっていて、ガラガラではありません。

禅定寺画伯は国際的にも評価されている抽象画家、その家政婦の好子さん、突然やってきて同居することになる冬馬くん。

大きなテーマは「愛」についての3者の変化、ストーリーを動かすのは好子さんの秘められた部分。

10点満点で。
脚本5点演出6点俳優100万点

脚本
この時期に上演できたことだけで100点なのですが、俳優にそれほど肩入れせず「作品」として見に来たとしたら、中途半端感がぬぐえません。

けっこう前から執筆されていた気がするのですが、詰め切れてないよね? で、詰めてないところを全部俳優が埋めています。もしかしたら、田渕さんとしてもアテガキなので余白を多くとって脚本を書いたのかしら? んんー、にしても、もう少し締まった脚本であったら、さらに良かった。

恭一郎画伯の問題の根は、両親との関係性。恋多き人でありながら孤独な人だ、と好子さんは言います。どうしようもなく孤独であるから、女は放っておけないのだ、と。

『愛』がテーマの絵になかなか取り掛かれないのは、宇宙的規模のすべてを包むような圧倒的な光、愛、を見てしまったから、圧倒的すぎて自分の力では描けないと思っています。この圧倒的な愛のくだりの扱いが簡単すぎた。

好子さんと冬馬くんが去ったとき、画伯のなかに何かが起きて絵に取り掛かります。冬馬くんが日常に生きることすべても愛では?と訴えるところで別の視点に気づくのだけど、そこ、もう少し恭一郎さんの変化をじっくり見せて欲しかった。

好子さんの妹さんが母親と再会させてくれたことも、より意味が大きく育ったのですよね。村上春樹が描くような、主人公を見守って自分は愛をもられなくて去っていく彼女たちを思い出したわ。すごく悲しい彼女たち。

冬馬くんが言うことも愛のうちだって頭では知ってはいたでしょうが、共同生活のなかで冬馬くんや好子さんとやり取りする中で、恭一郎さんのなかで腑に落ちることがあったから、そうれもそうだ、という心境に至ったのですよね。

脚本の方向性はすごく伝わるけど、そこ、全部俳優さんにお任せしたわけよね???という不満。脚本だけ読んだら、都合いい展開じゃない?って思っちゃう。

それから、女性には敵わない的はセリフが恭一郎さんにあったこと。好子さんの妹さんがかなしみで亡くなったと思うと、簡単に言ってほしいセリフではなかったです。

それらが残念ポイントで5点・・・

いいところも。アテガキの効果がすごく大きい。

おモテになる芸術家、という設定、冬馬くんのまっすぐさ、ファンが見たいなぁという部分なので。どうしようもなく孤独、とか! そうそう、もし「祐一郎さま」がそうだったとしたら暖めてあげたいって思ってしまうものー! このあたりは単純にトキメキました。へへ。
好子さんは、愛憎複雑にからむ難しい役だけど、知寿さんが演じると嫌味っぽくなくて、憎んで愛した、が素直に受け取れてしまう、すごい。女性、こんなに聡明な人ばかりじゃないけど、好子さん素敵な女性でした。

いろいろ不満書いたけど、それでも劇場を出てひとりホテルに歩いていると、自分のなかの「愛」は何かしら?と考えてました。人と出会って人生に変化が起こることが、今はとても眩しく思え、素敵な話だった、という気持ちも残りました。

演出
山田さんこんなに暗転多用する人だったんです?と落ち着かなかった。あと1幕最後の階段から落ちる恭一郎さん人形が下品と思ったので6点。

暗転が多いのと、脚本の構成もあって、エピソードの羅列、スケッチ風になっていました。好みの問題かもしれませんが、ブツブツ途切れる感じで好きではなかったのです。

人形落ちてこなくても、音だけで恭一郎さんが落ちたのは100%分かります。いかにも人形な物体を階段から落として、ビックリするので笑ってしまったのだけど、直後に「死んだりしたらツライ。ってかケガでも笑った自分が恥ずかしい」という心境になり、居たたまれませんでした。余計な演出としか言いようがない。止めてほしかった。

他の演出でも肉体を軽んじたり痛めて笑いを取る作品なら、その一部として受け入れられるかもしれませんが、この作品は上品系よね? どうしたの山田さん。山田さんの演出は素直さがいい点だと思うので、ここだけ疑問。

そのほかは安定したレベル。寝室の襲われるところも流れは良かったし。祐一郎さまの全身の美しさを堪能できました。

あとはきっと稽古場が楽しかったろうな、と想像できてしまう三人のやりとりが楽しかったです。山田さんが、油断するとすぐ祐一郎さんがチャーミングになってしまって、と吐露されてた部分も客としては知ってる!仕方ない!で、そこ含めての人物像にしてるし、いやほんとに・・・人形ですごく損してます。

舞台装置は回り舞台でアトリエ、食堂、リビング、寝室を区切っている感じ。そこに階段が横についてたけど、クリエは奥行きありますよね? 画伯のお家の広がりが感じられないのは心残りかなー。木とキャンバスの白、恭一郎さんもモノトーン系の衣装なので、トーンも抑え気味なので、景色がシンプルでした。これは画伯の趣味なんですよね・・・
鳥のさえずりも聞こえてきたし、いいお庭もありそうな邸宅のはずなので、解放感が欲しかったけど、それも恭一郎さんの心象だったのかもしれません。

0 件のコメント:

コメントを投稿