2014/06/28

『ビッグ・フェラー』5/31-6/1 5 ショッキングな話をします。

冒頭と同じく、聖パトリックスデイでのパーティー会場で演説するコステロのシーン。
タキシードのウッチー。民族衣装ではないところが、30年ほどの年月を思わせます。

自分の歴史、アイルランドの歴史をざっと振り返るような話が前半。そして、30年務めてきたパレードの先導役を引退し、後輩に譲ると言う。

ビッグ・フェラーと呼ばれたかった。賞賛されたかった。引退宣言の人間としては、悪くないスピーチですよ。

そして、<ショッキングな話をします>と続ける。前半はビッグ・フェラーとしてスピーチしていたが、明らかに、これまでのスピーチとは空気が違う。

密告者は自分だ、と。

お前はもうお終いだ! お前はもう、終いだ!

この声って誰でもない男、として聞いていいのかなぁ それとも、トム・ビリー(黒田さんの声だったと思うのだけど)として聞くべきなの?
このスピーチは、もちろんトム・ビリーもマイケルも聞いているのは分かるんですが。

はー、一瞬前までの大物感はどこかへ消え去り、隠してきた自分をさらす男がいるだけ。かといって小物になったかというと、そうではない大物だった(オーラが消えた)人というのかな。

固唾を呑んで、という比喩がぴったりな気持ちで、コステロのラストシーンまで見てました。冒頭と同じパーティー、スピーチ。舞台上でも暗闇のなかスポットライトで浮かぶのはコステロの姿のみ。
同じ演出ながら、冒頭では自信に溢れた男の輝きを映すようなスポットライトだったのに、ラストスピーチでは、法廷に立つ被告人か・・・もしくは刑の執行を待つ囚人か? 哀しい光が当たってました。

それから、自分は<アメリカ人だ>というセリフがありましたね。FBIの仕事を褒めろ、と(密告先)アイルランド人ではないんだ、というのがコステロのたどりついた自分の核だったんだってことでしょうか。
友人、仲間に嘘をついている自分に耐えられない、というのもあったのかもしれません。
IRAの目的と手段に疑問を覚えなかったときは、嘘だってつけたはずです。IRAが自分の理想から離れていくなかで、密告者となって舵を取り戻そうとしていたけれど、出来ませんでした。

ほんと、冒頭スピーチとの対比が、うまい!という配置で。
黙ってることもできたのに、さすがビッグ・フェラーだ>と言われたいのだ、とか。自分に突っ込むようなスピーチをこの時点でも入れてくるあたり、スピーチうまい人だ。
いつもスピーチは練習してた、アドリブに見えるところも全部考えていた、とも。確かに、それは虚栄心なのですが、キュンとなるエピソードでした。練習してるコステロ! イジラシイ。

お前はもうお終いだ! お前はもう、終いだ!

演じるウッチーも、そりゃ声音とか振る舞い方とか、技術がたくさんあるのだろうけれど、分析なんかどうでもいいわーっ 役者のレベルがわかるシーンだった。見事でした。

なぜかは分からないけれど、野次に怒りもせずゆったりと構えるコステロが、今こそ<ビッグ・フェラー>らしい。

最後に、イェイツの詩を朗読してフェイドアウト。

The Lake Isle of Innisfree  W. B. Yeats, 1865 - 1939
 I will arise and go now, and go to Innisfree,And a small cabin build there, of clay and wattles made:Nine bean-rows will I have there, a hive for the honey-bee;And live alone in the bee-loud glade.
And I shall have some peace there, for peace comes dropping slow,Dropping from the veils of the morning to where the cricket sings;There midnight’s all a glimmer, and noon a purple glow,And evening full of the linnet’s wings.
I will arise and go now, for always night and dayI hear lake water lapping with low sounds by the shore;While I stand on the roadway, or on the pavements grey,I hear it in the deep heart’s core.
日本語での朗読でした(プログラムに掲載) アイルランド人の理想の世界観なのですって。自然に囲まれた家で平和に過ごす風景。

ぶっころせーっ と最後に会場の声。恐い。

怒りと混乱のマイケルの部屋。
すでにカンカンのトム・ビリー。命令を待つことはない、すぐに殺しに行くぜ! トム・ビリーはいつも暴力になじみ、問題解決が暴力である。はぁ・・・
1チームに密告者が2人! と叫んだときは、ちょっと笑いました。多すぎる。

マイケルは、命令を待つべきだといいつつ、トム・ビリーが銃を出せといえば、床下から銃を出す。その銃が何をするのか
かりきっているのに。今日も素直な子だ。
音楽隊に加わっているため、民族衣装でねじ回し使ってる姿がステキー

車は盗んでいこうぜとか、もうダメ警官の見本みたいなトム・ビリーと反論しないマイケル。こういう2人組みって映画の定番だよと思いつつ、見てました。

そこへ、鍵穴ガチャガチャ音。誰が鍵を持っている? 自分と、ルエリと、ビッグ・フェラー・・・
ガチャリと開いたドア、ジャケットをぬいで(脱いでだよね?)るコステロが入ってきました。ギャーー! 殺される!

こんばんは、今日のスピーチ上手く行ったと思うんだが。とか。
答えようとするマイケルに、トム・ビリーが話すな!と制す。あー、これから殺すからだよ、ああああ。トム・ビリーが殺しに慣れてるんだなと思わせる場面でした。

トム・ビリーに言われたことを素直にしてるのを見て、<相変わらず言われたとおりに動く>と少々、皮肉めいてるコステロ。マイケルは、さっきは言われるより前に自分で鍵をかけた、と答える。コステロ、武器の手入れか、と。
こんなカタチでマイケルの成長を確認するなんて、皮肉なことよ。

お腹いたい。何が起きるかみんな知ってるんだけど、私は見たくないー。

■マイケルにやらせろ。
ソファに座ったコステロ、時計を外し、マイケルにやる、と。いい時計だと。
→朝鮮戦争のときに、死体から時計を外していた上官がいたが、それはアメリカ的じゃないから、嫌いだ。と話しながら。いい時計だから、したいから外さなくていいように、自分で外すの・・・

結婚指輪は、質屋にいれて飲み代にしてくれ。
→そんなお金でどんな飲み会開けばいいのさー。追悼の会か・・・うわぁん

僕のすることじゃない。
うわぁ、マイケル、ここまで自分の手はキレイキレイにしておきたい子だったのか。さすがのトム・ビリーもお怒りだ。好きで(処刑の役割を)していたと思ってるのか? そんなわけない。

コステロが、まだわからないのか、軍隊なんだ、敵は討たねばならない、それにすでに人を殺している、と(マイケルが詰めた銃弾で死んでいるのだ)言い含めるみたいに。

しーんとした舞台に響く、ぎりぎりの3人の会話が痛かった。コステロを殺してほしいと思わないのに、マイケルが銃を拒否するのは筋違いだよなとも思ってしまう。逃亡して処刑されるか、自分の手で父か兄貴のように慕っている男を殺すかだ。

いずれにせよ殺されるのなら、マイケルがいいと思った理由は何だろう。トム・ビリーが手を汚しすぎていることへの慰めなのか、IRAという組織の谷底をマイケルも見るべきだと思ったのか。

バスルームに入って、バスタブに腰掛けるコステロの後ろ姿! カッコいいんだけどね、辛いわ。
銃を持ってはいるものの、銃口を向けることさえできていないマイケル。
バタン、ドアがトム・ビリーによって閉められる。
しばらく、そのままマイケルが何もできないでいる状態のまま過ぎ、外にいたトム・ビリーが痺れを切らしたのか、銃を確認してバスルームの中へ。

数秒の静けさののち、ズドン!
私、これはトム・ビリーが撃ったのだと感じていたのですが。どこかのインタビューか、もしくはイベントで浦井くん本人は、<マイケルが撃った>ということで演じているとのこと。
しかし引き金を引く場面がないので、いつものようにトム・ビリーが撃ったと捉えても仕方ないのでは?

みなさん、初見時にどう捉えてたのかしら?

マイケルには無理だ。と思いたい私の気持ちがそうさせたのかもしれないですね。
銃声、ゴン!とコステロが倒れる音、そして暗転。

コステロが殺されるここのシーンは、音楽もなくて、テンション上がりきったトム・ビリーの危なさと、コステロの悟っている感、そしてマイケルの、ココに来てもまだ上手い手があるんじゃないかと期待している、お坊ちゃん感、がそれぞれに見えて、IRAという組織の暗黒面ここにあり、でした。
マイケル、30年経ても裏切り者は殺せないままだと思ったんだけどなー。

あそこ、扉を開けていてくれたらよかったのに!

粛清というのかな・・・・ いくら厳しく取り締まっても、全員が同じようには動くわけがないのを、皆知っていて、内部で監視しあうような面がなくなることはないのね。
コステロの悟っている感、というのは、つまるところ彼がそうやって他人を粛清してきたから、自分も同じように死ぬのが筋だと思っているからです。
と同時に、マイケルも人に汚れ仕事させて自分を誤魔化していることを自覚しろって言いたかったのかも。マイケルの手も同じくもう汚れていて取り返せないんだと。

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